2016年9月26日

樒(シキミ)

昔から納棺の時間には、古いしきたり又は宗旨などにより「樒(シキミ)」が使われることがありました。現代でも宗教・宗旨により、儀式の時に使われるシキミ。

《野生動物から遺体を守るシキミ》
納棺の時間、遺体を安置するために、昔から使われてきたシキミには、特徴があります。

①虫が寄り付きにくい。

②臭いを消す効果がある。

③シキミを入れた水は腐りにくいと言われており、腐敗の進行に何らかの良い作用がある。

④土葬の時代には、野生動物に墓を掘り起こされように臭気対策として墓にもたくさん入れた。

《座棺を土に埋めた後》
むかしは座棺と呼ばれる、今でいう体育座りのような姿で大きなタライのような形の棺に安置されました。その遺体を守るため、包丁やクワなど、

①動物が嫌がる光るもので、

②掘ろうとした時に動物が刃物で怪我をするので、あきらめる目的として。

そういう物も入れて野生動物から遺体を守ろうとした歴史があります。

棺に釘を打ったのは、棺がそう簡単に開かないように、野生動物に掘り起こされるのを阻止するため。

《守り刀》
亡くなられた方の胸元に守り刀と呼ばれる刃物を置く地域もありますが、守り刀を置くのも、野生動物から遺体を守るため。

鋭利なもの、光るものは邪気が嫌うのでなど、死生観と結びつき、意味を持たせ、現代のしきたりになっていきました。

《人の体から出る臭い》
人の体の特徴の一つとして、血液の酸素を送る成分は食べ物を摂取することで、作られています。そこから骨や肉や髪の毛なども作られ、それらはタンパク質で出来ていて、その中にはイオウの成分も含まれています。人の体が腐敗を発生させ、死後の変化が進んだ時に発している臭いが強烈なのは、その成分の関係が大きくあります。

そのような臭いを消すために、昔から消臭のための目的として、シキミが選ばれていました。シキミから線香や抹香なども作られています。

《現代のしきたり》
納棺の時間に御線香を、安置されているお布団の四方で焚く地域もまだ残っています。シキミから作られる線香は、腐敗臭を感じさせないためと、故人の尊厳を守るためにも使われてきました。死臭対策と、これに死生観が加わり、

線香の煙がご馳走の意味を持つ。

線香の煙に乗って亡き人が上がる。など、

死臭対策と人々の生活の中から生まれた民俗信仰が持つ死生観との深いつながりを作りながら、現代でも「しきたり」として残っている地域がまだまだあります。

日本の風習の中には昔の人の知恵が「しきたり」として今の時代に残っています。その一つ一つには、しっかりとした根拠があります。「しきたりなんて、いらない」と言われることも増えてきた現代ですが、しきたりの意味を知って、無くすかどうかの議論をすることを、私は望みます。

私たちのように、死後の処置を行う立場にある場合。時代の進化と共に、昔より出来ることも増えていきます。そのような場合、しきたりを失くす可能性を持ち合わせており、失われつつある「しきたり」と共に過ごす時間の中で、しっかりと意味を知り、語り継ぐことの責任を持ち合わせていることを強く感じていました。

風習としきたりの中には、昔の人が遺してくれた知恵と、いのちとの関わり方、死者との向き合い方が、きちんと細やかに含まれているものです。

《おまけ》
納棺の時間はこのように、お年寄りから伝えられる日本の風習や文化を御教授いただくこともあります。小さな子どもたちは初めて聞く話に、目を大きく見開いて聞き入ります。

「何でも質問してみろ!」と、お年寄りが子どもたちに言います。

手を上げた子ども。「はいっ!」

お年寄り「はい、どーぞ!」

子ども「この前、大人の人が話してたんだけど、立派と河童(カッパ)は、どう違うの?」

お年寄り、大爆笑。「一緒です!

立派な人は、自分で立派と言いません。黙々と何ごとにも打ち込み、人から高く評価される人。それを、立派という。

立派ではない人は、自分を立派と言います。人を否定したり人の悪口も沢山言います。自己評価の高い人。それをカッパと言います。

後者は、立派ではないカッパです。自分のことを立派と言っている人はカッパです。だから、一緒です!」

私、納棺の時間の中なので目立たないように、小さく拍手。パチパチ、パチパチ!その場に居た人たちも、パチパチ、パチパチ。

河童の存在する地域だからでしょうか?「立派とカッパ」について、けっこう話題に出ることが多いので、この解答は、深かったです。

(ちなみに河童は、河に住み着く童(わらし→子どものこと)で、イタズラをしたり、無邪気に遊んでいたり、子どもなので自分中心の動きであるため、そこから立派とカッパの関係で語られるのでしょうか?一方、妖怪と呼ばれる説もあります。)

これがまさに、生きるための知恵!社会に出れば、沢山のことがありますから、切り返し法や、知恵が無いと、生きていても苦しくなります。お年寄りから、子どもたちに伝えられる、粋なそして風習やしきたりから学ぶ情報は、きっとこれからも子どもたちの「生きる」を支えてくれることでしょう。