2015年3月30日

ありがとう

インターンシップ、講演、出版物や寄稿などの原稿も行いながら、納棺や復元の現場にもご縁をいただいて走っていました。

悲しみの表現の方法、死の迎え方、年齢も0歳から100歳を超える方まで、精一杯生きた時間も、お別れの時間の関わり方も、みんな一人ひとり違います。

遺されたご遺族が、本当に「死」を実感するのは、大切な家族を見送り終わってからの、生活がスタートした時。「本当に居ないんだなぁ」と、お話しをしてくださるご遺族も、少なくありません。

嘆いて、苦しくて、誰にも会いたくなくて、泣き続けて・・・。そういう時間を、ほとんどの皆さんが経験されています。当然です。大切な家族を亡くしたのですから。でも、苦しんだ人が発する言葉には、特徴があります。温もりいっぱいで、人の心に残る言葉を伝えてくれます。

現場で、こんなことがありました。おじいちゃんを亡くした、小学生のお孫さん。棺への移動のとき、「おじいちゃーん!」と大きな声で故人に向かって叫びました。そうすると何処からか

「はーい!」

と聞こえて来て、みんなで驚いて声の主を探しました。その声の主は、部屋の隅に座っていた、腰の曲がった近所のおじいちゃんでした。とても素敵な笑顔で、にっこり笑ってお孫さんを見ていました。お孫さんも、

「ありがとう。」

と、涙を拭きながら言っていました。そのおじいさんは、お孫さんを亡くした経験があるのだと、帰りにこっそり、私に教えてくれました。

「孫がね、呼んでいるみたいだったから。」

深くて、優しくて、強くて、弱くて、悲しみの現場には、人の温もりが確実にあるものです。「ありがとう」の言葉が、こんなに心にしみるものだとは、私も初めての経験をさせていただきました。