2015年9月25日

マッチョ⁉︎

現在の被災地沿岸部の納棺は、ナビで地図を入れても、現場に到着するまでに、何度も回り道をしなければならないことが多くあります。

大雨の後は、道路が地震での地盤沈下による冠水のため通行止め、
土砂崩れによる通行止め、
津波の被害により通行止め、
津波の被害による工事のため通行止め等々、

こっちかな?
あっちかな?

東日本大震災の影響がもたらした、様々なことは現在もまだ続いています。災害が一度起こると、それで終わりと言う訳ではない・・・ということに、心も環境も、毎日出会っている気がします。

そういう話題に関しても、納棺の時間にご遺族と話し合うことも、現場では少なくありません。その前も、その前の前も、ほぼ毎日、そのような話からスタートします。

先日の現場で故人は震災後、直接的な被災者でありながら、病とも戦い、ずっと地元の人を支えていたと言うお話しを伺いました。

「お父さん、起きて!」と、棺の蓋を閉める前に奥さまが言いました。それを聞いて息子さんが、

「今まで父さん、本当に頑張って来たんだもの。やっと楽になれたんだから、ゆっくり眠れる。休ませてあげようよ。もう、起こさないであげてよ。今頃、先に逝ったみんなに会ってると思うよ。」

奥さまも、「あ!あ、あ・・・、それも、そうだよね。ごめんね、もう、ゆっくり休んで良いんだよ。」と、声を掛けていました。

棺にいっしょに入れて持たせて差し上げたいものには、マッチョな体を作るためにいつも愛飲していたサプリメントを選ばれました。高齢でしたが、本当にマッチョでした。大好きだったリポビタンDは瓶なので、棺には入れられないため息子さんが飲み干しました。

「うまいっ。」

故人が普段好きだったことを、故人の体がある時に夜なべして、朝を迎えるまで行うことも、日本の葬送の時間には、よくあることです。例えばトランプ、料理、絵を描いたり、折り紙を折ったり、花札なんかも聞くことがあります。そこには、故人の想い出話が確実に存在し、偲び、送る気持ちを整えていくと言う意味がある訳です。

現場では色々な希望が出てくるのですが、体が硬くなったので(死後硬直)、柔らかくして欲しいと言う希望もあり、解いて体を柔らかくしました。着せてあげたい物もたくさんあり、ご遺族の希望に添いながら、皆さんと「5枚」重ね着をしました。

「すごくマッチョに見えるね。」

そう言いながらも、「本人の希望を叶えたので良かった。」の言葉と一緒に、ご遺族に安心した気持ちを含む笑顔が戻りました。

「災害で家族を亡くし、その後にまた家族を亡くし。お彼岸の今時期は、お参りもお墓と発見された場所や、元々家のあった場所をお参りする。お参りの場所が、増えていきます。」と話してくださるご遺族も居られました。

ご遺族の姿は、故人の人柄や姿を写していることがあります。腰に手を当てて、しっかり肘をあげながら「プハァ〜」と一声。牛乳、オロナミンC、リポビタンDなどを飲むときの姿・・・、きっと故人も、こういう風に腰に手を当てて飲まれていたのかしら・・・、故人の生前姿を拝見しているようでした。

「飲み方、お父さんそっくり(笑)」

息子さんの姿を見て、さっきまで泣いていた奥さまが、笑顔になることがあります。故人の想い出が、故人が遺した大切な家族を、支えてくれる瞬間に立ち合えるのも、この仕事を通して教えてもらえることなのかもしれません。