2015年9月4日

赤ちゃん

朝早くから出動した今日でしたが、夕方には不在になる今週末のため、不在者投票を済ませて、腕を組んで空を見上げて考え事をして、そして又走る、走る・・・。

腕を組んで、空を見上げて、考え事をしたその理由は、赤ちゃんの専門のお医者さんから教えていただいた、お話の内容を考えていたからでした。

今日、学会での講演のご依頼と言うお話しでしたが、赤ちゃんの専門の先生の思いや、これまでの活動、積み重ねた時間を伺って、たくさんの赤ちゃんや子どもたちが、先生に光を感じて最期まで素敵な時間を周りの人たちといっしょに過ごし、生きていたんだなぁ、と言う思いでした。

けれども現代の中での問題はたくさんあるのだとも、様々に教えていただきました。だから、頭を悩ませていました。

私で何かお役に立てるか分かりませんが、精一杯お話しをさせていただこうと心に決めた時間でも、ありました。

納棺の現場で、お年寄りに教えてもらったことがありました。

「昔はね、土葬だったでしょう。安置もね、今よりもとても長かったんだよ。ドライアイスなんかの無い中で、10日も安置すれば腐敗して大きく膨らんで、色は緑から黒になり、目も舌も飛び出すんだよ。(全くその通りです)だけどね、昔、妊婦さんの葬儀があったの。7日目に、死んだお母さんの体から赤ちゃんが産まれてね、赤ちゃんも死んでたんだけど、みんなでね、「よく頑張ったね」って産湯につけて、おくるみにして、お母さんの胸に赤ちゃんを抱かせたんだよ。それを想い出したんだけど、どういうことだったんだろうね?」

私は答えました。「赤ちゃんが、お母さんのお体から産まれることが出来たのは、腐敗ガスによる、ガス圧により押し出された現象だったとは思います。だけど、そこに居らした皆さんが「お産」と思ったなら、それはそうだったのかもしれません。何より、赤ちゃんに手厚く愛情を掛けて、お母さんが最も望まれていたであろう「抱く」ことを叶えてくださった皆さんの行動に、私は頭が下がりました。」

この仕事をさせていただいて、分かったことがあります。生きている赤ちゃんも、亡くなっている赤ちゃんも、同じくらい可愛くて、愛おしいということ。いつも現場で、復元前から私の気持ちの中で、「あぁ、この子は何って、可愛いいんだろう。」と思いながらスタートしています。

私「だけど、臭い強くなかったですか?」
お婆さん「そうそう、それはもう、大変な臭いだったよ。」

腐敗が進むと、臭いは進行に伴い強くなっていくのです。「遺体を見て、気を失った」と言う話をよく聞きますが、臭いによる影響もあると思います。嘔吐される方も、多く居られます。だから復元は、絶対に臭いを消す。沢山のミッションの中の「臭い」は、その一つでもあります。棺の蓋を何度開けても、絶対に腐敗臭を感じさせない。それが、私のこだわりです。「臭い」が辛い記憶になっている方は、「どうして臭いがしないの?」と現場で私に聞きます。「魔法をかけました。もう、大丈夫です。」と答えますが、皆さんに亡くなられた方をずっと大好きでいて欲しいから、臭いは消す。願いは、ただそれだけです。

今日、赤ちゃんの専門のお医者さんとお話しをさせていただいた後、以前の納棺の現場で、皆さんとお話しした内容を、ゆっくり想い出して、あの時の時間を偲んでいました。